講演:「旅の専門家から見た京都」
高 橋

 皆さんこんにちは。高橋でございます。どうぞよろしくお願いします。実は私,このお話いただきまして,参加者の皆さん方の募集が始まった頃に,京都の大学の頃の友人から久々に電話がありまして「申し込んでみたら,もう一杯になってる」と言うんですね。「あ,そんなに人気があったのか。」と言うと「そうそう。長谷川等伯を見に行きたいからね。」と言われちゃいまして,「あ,そうですか,私は等伯のツマですね」と言ったら,「そう。あんたはツマやねん」と言われました。皆さん方の今日の目的も長谷川等伯画伯と智積院さんのきれいなお庭だと思いますが,しばらくは私にお付き合いいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

 私には「旅の専門家から見た京都」というお題を頂戴しました。旅の専門家と言われてちょっと考えてみたんです。私はJTBに23年間勤めまして旅行関係の仕事,地域活性化の仕事,イベントの仕事などをしてきました。その前に4年間,京都で学生生活をして学生ガイドのアルバイトをずっとやらせていただいたんです。京都学生観光連盟という京都市が作られた団体がございまして,それを含めると27年余り観光関係,今も地域の活性化について仕事をさせていただいています。

 観光の観の字を漢和辞典で調べてみたんです。そうしましたら,2つ意味がありまして,1つは示すという意味がありました。観光に当てはめて考えてみますと,地元に住んでいらっしゃる方が自分の誇りと思えるものを示していこう,こういうような意味が観光の観の字にあがっていました。また,心をこめてというよう意味もあるんです。ということは,観光客の皆さん方は,地元の皆さんが誇りとするものを心を込めて見る,双方向のインタラクティブのやりとりが観光なのかな,と今回のお題を頂いて解釈したわけです。

 ですから,その両方の立場で今回のお話を進めさせていただけたらと思っておりまして,今日は私の京都にかかわりがある経歴と,それから旅行代理店から見た京都,で,最後には,京都市民の皆さんに対しての京都における観光のあり方の提案というような流れでお話を進めさせていただければと思っております。

 先ほど,京都学生観光連盟というところでアルバイトをしていたと申し上げました。今日,資料の中にコピーで地図が入っているんですが,これを御覧いただけますでしょうか。学観連と私たちは呼んでいたんですが,ここは1回生の時に募集があって入りますと,だいたい7,80人ぐらいいます。それから講習会という大変厳しいものがあって,そこで10人ぐらいに絞っていくという作業があるんです。その厳しいことって何をやらせるかと言うと,まず白地図を配るんです。だいたい3日か4日ぐらい講習があるもんですから,これをずっと上から下まで歩いていくんです。これは,東大路通なんですけれども,左上から御覧いただきますと,北大路通と東大路通の交差点から出発します。ここからずっと下がってきまして元田中の駅の近くを通り過ぎまして,ガソリンスタンド,GSと書いてあります。そこに大きなお寺さんのマークがありまして,ここは何かお分かりですか?知恩寺さんですね。で,ここにお寺さんの正面に石碑が立ってる。その石碑とか,駒札を読んでくるという作業をするんです。ここの石碑には何が書いてあるか皆さん御存知ですか。百万遍根本念仏道場と,確か記されているんです。昔,疫病がはやった時に百万遍念仏を唱えた。そういうところからこの辺りに百万遍という名前がついたんだとか,そういう名前の由来を覚えさせるために,こういう石碑とか駒札を見て歩かせるわけです。次に,京都大学を東に向かいます。バスの中からも案内するもんですから,バスはだいたい3,40キロで走っているんでしょうか。その走っているスピードに合わせて,どういうように見ると,そのものが見えるのか,ということをしっかりと指摘させるということをするんです。ちょうどこの京都大学のところで,見せろって言われてたのは時計台です。振り返って見るような形で見ると時計台がきれいに見える。バスの高さは結構ありますので,普通の乗用車ではなかなか見えない。どんな風に見えるのかっていうことも探しながらずっと歩いていくんです。

 下がって,今度は丸太町通りの交差点のところに八ツ橋と書いてありますね。八ツ橋が見えると丸太町通だということで,その向かい側,熊野神社。ちょっと入ると聖護院がありまして,まっすぐ東大路通を下がって参りまして疏水を渡って二条通,この辺りに入る前に,観光バスは丸太町通を左折するんです。京都ハンディクラフトセンターと言って,外国人の皆さん方がよくおみやげを見にいかれるところを右折して,平安神宮のバスプールに入るのが一般的なコースだったんです。

 平安神宮を御覧いただいた後,またバスに乗って,応天門と書いてあるこの門を皆さんに見せながら話をするんです。応天門では,真言宗の空海,「弘法大師さんの『弘法も筆の誤り』というのは,一つ点を忘れてしまったよ,そこで筆を投げたら,しっかりと点が付いたんだよ」と,そういうエピソードみたいなところを,ここの応天門の応の字のところでお話をするわけですね。それで,ここの道を真っ直ぐ下がりますと大きな鳥居があります。鳥居は日本で2番目に大きな鳥居なんだと教えられるんですね。たしか22,3メートルぐらい,直径が3メートル強あるというもんですから,あのとき案内したのは,何人で手をつながないと一周できないか,そんな大きさをお話申し上げる。

 そうすると今度は右手,神宮通と三条通の交差点へ出るんです。これを下がるとまずお寺さんのマークがあります。青蓮院門跡ですね。これを下がるとまた大きなお寺さんがあって,日本一の山門,知恩院です。ここをずっと東大路通を下がっていきますと,今度は門前町の祇園ですね。吉井勇さんの石碑があります。<かにかくに 祇園はこひし 寝るときも 枕の下を 水のながるる>というような歌碑です。この辺りをまっすぐまた下がると八坂神社です。八坂神社を通り過ぎると今度は右手,祇園甲部歌舞練場がきれいに見えます。昔,20数年も前の話ですから今見えるかどうか分かりませんが,その辺りを見ていただいて,舞妓さんのお話なんかをするんです。さらに下がって参りますと,八坂の五重塔がきれいに見えるんですね。昔は八坂の塔が見えるよというところにお店が2つ並んでまして,今もあるかどうか分かりませんが,熱帯魚屋さんの看板と電気屋さんの看板が並んでたんです。その二つを,「いいですか皆さん,左手見ててください。熱帯魚屋さんの看板と電気屋さんの看板の,その次を見るときれいに八坂の五重塔が見えるんです」と案内して「熱帯魚屋さん,電気屋さん,はいこちら」というと八坂の五重塔が一瞬ぱっと見える。一瞬です。でも八坂の五重塔は京都に4つある五重塔の中で一番形が美しいそうでありまして,その一瞬だけ,チラッと見えるところがまた,バスに乗ってる皆さん方からすると良いんですね。「また来なきゃいけない」みたいな感じになるんです。

 こうして八坂の五重塔を見まして下がって参りますと,今度は東大路通の左側にお寺さんのマークがありまして,六道珍皇寺です。小野篁が井戸を通じてあの世と,閻魔大王との間でやりとりをした。さらにちょっと下がったところにお寺がありまして,これが六波羅蜜寺です。空也上人の南無阿弥陀仏と唱えている木像が残っております。さらに下がって参りますと,今度は清水寺に入るところに差し掛かってきます。この五条通に面している辺りは,もうちょっと奥に参りますと,鳥辺野とありますね。<あだし野の露消ゆる時なく,鳥辺山の煙立ちも去らでのみ住みはつるならひならば,いかに物のあはれもなからむ。世は定めなきこそいみじけれ。命ある物を見るに,人ばかり久しきはなし。かげろふの夕を待ち,夏の蝉の春秋を知らぬもあるぞかし>ですね,その無常観をバスの中で切々と言うんです。兼好法師は40ぐらいで死ぬのが一番良いとこの中で言ってるんですけれども,実はあの人70まで生きたんですよ。こののちは,清水焼の窯がありました。五条通ちょっと下がったところに煙突のマークがあるんですけれども,ここは確か小川さんというところの窯だったんですね。今はないでしょうね。大抵,山科へ移って,電気の窯で焼いてしまうもんですから,こういう煙突も見えません。さらに行くと,左側には妙法院さん,国宝の庫裏があるんですよ。白書院の中の襖絵は確か仙人がたくさん描かれたような襖絵だったと思います。ここを越えると今度はこの智積院になりますね。国立博物館の上のところに神社のマークがありますが,豊国神社で,秀吉公が祀ってある。その上のお寺のマークが方広寺ですね。「国家安康・君臣豊楽」の鐘が今でも残るお寺。またこの智積院さんを左に見てまっすぐ下がってくると,東海道本線を越えた辺りに新熊野神社がある。そしてこの東大路通を曲がったところ,まっすぐ奥に入っていくと,先日,小泉総理が行かれた泉涌寺,たしか内蔵助と縁が深いということで,来迎院さんに行かれたと思います。一番下のお寺さんマークは東福寺です。

 こういうところが東大路通にはございまして,通りの一つ一つに本当に感激しました。堀川通を歩かされた時に,一番最初に確か島津さんがありましたね。今もあるのかどうか分かりませんが。そこの奥のちょっと中に入ったところに土饅頭があるんです。「紫式部の墓」と書いてある。驚きましたね。えーっこんなところに紫式部?って。私,歩いて観光するということが,この時から大好きになりまして,バスで観光してたり車で観光してたりすると全く見落としてしまうようなものが京都にはたくさんあるんです。歩いてみて,日本史の勉強の仕方というのはこういう風に歩いて覚えたらもっと絶対にいい点取れるんじゃないかと思いました。京都は至るところに本当に素晴らしいものが眠ってるんだな,ということを感じました。今出川通ですと,京都大学,同志社大学があって,ちょっと西に行きますと北野天満宮がありますね。「学問の道」と言えるかもしれない。このように色んな通り通りにそれぞれのテーマがあるんじゃないかと思います。東京に行きますとそれぞれのまちに特徴があります。私は今,青山で勤めているんですけれども,表参道,南青山辺りはなんとなくファッションセンスが良い人が集まってるんじゃないか,というようなイメージをお持ちいただけると思いますし,汐留,新橋辺りというとサラリーマン,電通さんや日本テレビのあるマスメディアのまち。そんな風なイメージがだんだんとそのまちの中にできあがる。京都の場合は通り一つ一つが非常に特徴のある素晴らしいまちなんだな,というのが私が学生時代から思っていることです。

 こういう京都でありますので,旅行代理店が見逃すわけがないんですね。ここに東京で配られてるパンフレットがいくつかあります。これはJR東日本さんのパンフレット。JR東日本さんは一番売りたいのは本当は東北新幹線を売りたいんです。ですから東北地区のパンフレットはすごく充実してます。それに比べて関西地区とか九州は本当に数が少ないんです。ただ,この京都だけはちゃんと一都市でパンフレットになってるんです。これはJTBでありますが,京都・奈良・琵琶湖と書いてありますが,もうほとんど京都が中心です。中に載ってますが,ほとんどが宿と往復の新幹線・飛行機使うといくらになりますよ,というスケルトン型の商品になってます。スケルトン型の商品が旅行代理店になぜ多いかというと,お客さんとの店頭でのやり取りの時間が少なくてすむし,店員さんに専門知識がなくてもいいんですね。「どこに泊まったらいいよ」とか,「何時ごろの新幹線で行くと便利ですよ」とかだけやり取りすればいいんです。セットにすると安いもんですから,お客さんにもこれがお得ですよということで,こういうスケルトン型が多い。

<つづく>

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