趣旨説明
「国家戦略としての京都創生」の取組について

京都市総合企画局総合政策室 京都創生推進部長
岡 亮宏 氏


 日常生活に伝統的な文化と地域の絆が息づく京都は、日本全体の共有財産であり、京都があらゆる努力を行うとともに、国の施策としても課題を解決していく必要があります。

 このため、景観・文化・観光を重点分野に、新たな価値の創造、京都の都市格の向上を目指した国家戦略としての京都創生の取組は平成15年に始動し、今日までに数々の成果を挙げています。平成28年には文化庁の京都への全面的な移転が決定されました。京都市としても、文化の力で付加価値を産む、新しい文化行政の一層の充実に取り組んでいきます。

京都迎賓館警衛官和装の紹介

内閣府迎賓館京都事務所 所長
堀金 真理 氏

京友禅・京小紋伝統工芸士
大野 信幸 氏


堀金氏

 京都迎賓館は、日本建築の長い伝統の粋と美しさを、現代の建築技術と融合した「現代和風」の建物です。その京都迎賓館で海外の賓客をお迎えするにあたって、背広姿より和装の方が良いのではないかという声が上がり、昨年10月に、試験的に館長と所長が羽織はかま姿でお迎えしました。その流れでこの11月中旬の接遇から警衛官も大野信幸氏制作の裃(かみしも)をまとうこととし、館長、所長、警衛官が和装でお迎えすることとしました。海外の賓客にも大変好評で、京都府知事や京都市長等からも大変喜ばれております。


大野氏

 私は約50年にわたって伊勢型小紋の染に携わっており、お能で着用されている裃(かみしも)等を染め続けています。裃の小紋には、鮫、角通し、行儀という江戸小紋三役がよく使われますが、京都迎賓館用の裃には、徳川家のお留柄として使われてきた鮫小紋が、また、紋には日本国の紋章でもある五七の桐が使われております。 最近は機械を用いた捺染が主流となっておりますが、私は伊勢型紙の細かい手作りの伝統を守りながら仕事ができることに喜びを感じております。





講 演
「京都迎賓館〜美と技の継承」

 

京都工芸繊維大学名誉教授

中村 昌生 氏


 かねて日本に外国からの賓客をお迎えする日本的な施設のないことに不審を抱いていた私は、二十数年前に迎賓館の建設構想を聞いたとき、日本もようやく文明開化を迎えたと思いました。以降、京都迎賓館建設懇談会の委員を仰せつかることになり、議論が重ねられ、平成17年に現在の建物や庭園が完成しました。

 建設コンセプトは、日本の伝統と現代建築技術の融合を目指した「現代和風」でした。強度や耐久性を上げるために鉄骨やコンクリート構造も採用、屋根には新開発の素材も使っています。安全上の観点から、障子があっても外側に強化ガラスを設置しました。

 和風に流れるテーマは「庭屋一如」です。穏雅な建物と自然豊かな庭園や池が一体となって穏やかな景観や環境をつくり上げるもので、日本人が長い時間をかけて育んできた自然観、生活観が反映されています。

 建設場所は京都御苑内の御所東方の敷地で、京都御所が見えず、御所を圧迫することのない低層の建物とし、駐車場や倉庫などは地下へ収めるように設計されています。明治維新まで、公家屋敷が集中していた御苑からは、豊臣秀吉建立の聚楽第に使われた聚楽土と同じ土も掘り出され、館内の壁に再活用されました。

 迎賓館は幾つかの部屋から成り立っています。夕映の間は会議室として使われ、『比叡月映』『愛宕夕照』と名付けられた二つの大壁画が両端にあり、それぞれ京都の人が親しんできた月の出と夕日の情景が描かれています。この壁画は、綴(つづれ)織りという織物で原画が忠実に再現されたもので、京都が誇る伝統工芸の技です。

 藤の間は大宴会場です。ここにも綴織りの『麗花』が正面の大壁面を飾り、フジを中心に40種近くの花がちりばめられています。能や京舞など伝統芸能を披露するための舞台の扉には、人間国宝の故江里佐代子氏による截金という装飾技法が施されています。本来、仏像・仏画に施された繊細な技法で、南禅寺に特別工房を設けて壁画を完成させた江里氏の会心作で、氏の生前最後の大作です。

 主に海外の賓客に利用していただくわけですから、和建築といっても多くは靴を脱ぐ必要のない構造としていますが、畳敷きの桐の間から奥は例外です。しかし椅子式の生活をしているお客さまを考え、堀りごたつ式が採用されました。12メートルもの一枚板の卓に漆塗りを丁寧に施すのも初めての試みでした。天井の板は12メートルの杉中杢板で、現場の棟梁が吉野の地から苦労の末に探し出してきたものです。各座椅子には日本政府の紋でもある五七の桐が埋め込まれています。

 桐の間からは庭の景観を楽しめ、「庭屋一如」の境地を実感できます。庭と建物をつなぐ役目をする土間(どま)庇(びさし)により雨にぬれない空間が保たれるのも和建築独特の構成です。池の方から建物を鑑賞すると、一段と趣のある庭と建物の一体感が感じられるので和船も用意されています。水上からの情景に感嘆の声を上げた国賓も数多いと聞いています。

 水明の間では首脳会談が行われます。建築技術の進歩により強度を失わずに柱を減らせたので、障子を開け放てば庭園を一望することができます。迎賓館を訪れた国賓が帰国後、まるで庭の中にいるようだったと最大級の賛辞を送ってこられたそうです。日本建築の神髄は外国人にも理解されると私は確信しております。

 各部屋に共通することでは、深山幽谷から大海までをイメージした水の流れを演出したり、建築現場から出土した美しい石を丹念に園路に敷き直したりするなど、迎賓館は、官民一体となって多くの伝統技術や技法が精魂込められて完成されました。

 私は、和食と同様、日本人の根底を流れる感性と一体となっている京都迎賓館を創りあげた建築と庭の匠たちの伝統的な技能が、世界無形文化遺産に登録されるべきであると期待しています。京都ならではの伝統文化の粋を集めて外国の賓客をもてなす施設として歴史に残ることでしょう。

(講演終了)


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