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主催者あいさつ | |
皆さん、こんにちは。当フォーラムの代表を仰せつかっております、代表の立石でございます。 ご承知のとおり、東日本大震災が発生して1年半が経とうとしていますが、新たな日本再生への課題、あるいは原発事故に端を発したエネルギー問題など、明日へ向けて解決すべき多くの課題を、現在われわれは抱えています。また、昨年未曽有の大震災を経験した我々日本人は、本当の意味で人間の幸せとは何かを考えるきっかけとなったと思っています。例えば、人間の幸福観、あるいは家庭観、そして労働観、さらには環境、安心安全を重視する社会観など、価値観そのものが大きく変化していくきっかけとなったのではないかと考えています。 このような社会状況において重要なのは、守るべきものを守りながら正しい人間の生き方、あるいは暮らし方、まちの在り方について、新たに創造することです。そして、その提案力がいま求められているのではないかと思っています。 私は常々、高い文化と学術を有する創造的都市が、その時代の産業に革新を起こすと申し上げていますが、その先頭に立つ役割が京都にあるのではないかと考えています。この文化と学術に裏打ちされた京都独自の創造力は、1200年の時を経て新しい産業、あるいは生活文化を創造する知恵を生み出し続けており、京都はまさしく人間の生き方、暮らし方、まちの在り方の知恵の宝庫であると思っています。 我々産業界においても、いま大切なのは、これまでのモノの豊かさに加えて、自然との共生、安心・安全、健康といった心の豊かさの追求、あるいは、生きている喜びを追求する自己実現に重点を置く新たな価値観のもとで、未来に向けた「革新と創造」を始めることではないかと思っています。 現在会頭を務めている京都商工会議所においても、3年前から、ニュー京商ビジョンの中で、「知恵産業のまち・京都の推進」を方針としてまとめました。その中で、やはり1200年に蓄積された私たちの知恵を付加価値の源泉にして、これからの地域経済の活性化、あるいは雇用促進に貢献する、小さくてもキラリと光る内需型の中小企業を数多く生み出し、京都の発展につなげていきたいと考えています。 また、今年10月に京都商工会議所が130周年を迎えるに当たり、さまざまな記念事業を通じ、京都内外の皆さまに京都産業の強み、知恵を知っていただける機会を提供することで、京都創生に微力ながら貢献してまいりたいと考えています。 さて、本日のシンポジウムでは、「"伝統"の継承と創造」をテーマにパネルディスカッションを行います。本日ご参加いただきました皆さまが、京都の魅力を再確認いただくとともに、世界に向けてどのように発信し、伝え広めていくべきなのか、一緒に考える機会になればと思っています。 結びに当たり、本日快くパネリストをお引き受けいただきました皆さまに、厚く御礼申し上げますとともに、本日のシンポジウムが京都創生の実現に向けて、力強い一歩になることを期待いたしまして、開会のごあいさつとさせていただきます。 |
市長あいさつ | |
皆さん、こんにちは。京都市長の門川大作です。立石義雄会頭はじめ、京都ならではの素晴らしいリーダーの方々によって京都創生推進フォーラムを組織していただき、力強い取組を進めていただいています。また、このフォーラムにご参加いただきました皆さんに、心から敬意を表し、お礼申し上げます。 多くの参加申込があり、抽選させていただいたと聞いています。ありがたい限りであります。昨年は第7回目ということで、7月7日に上七軒でシンポジウムを行いました。上七軒は、「国家戦略としての京都創生」の取組の中で誕生した、「歴史まちづくり法(地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律)」に基づく補助も得ながら、いま、電線電柱を地中化し、道路を石畳風にする、そんな取組が進んでおります。非常に美しく生まれ変わろうとしていますので、またごひいきいただけたらありがたいと思います。 今年は第8回です。末広がりのめでたい日である、8月8日に、そして金剛能楽堂で開催させていただけることを、本当にうれしく思っています。 さて、ただいま立石会頭から含蓄のあるお話を聞かせていただきました。東日本大震災を経て、本当に日本の地域社会の在り方、産業の在り方、エネルギー政策も含め、また一人一人のライフスタイルも含めて、厳しく問われており、あらゆる改革が求められています。 私たちは被災地、被災者に心を寄せながら、同時に1200年を超える歴史の中で京都が培ってきたものの中に、この閉塞感に満ちた、混迷した日本社会を明るく展望していく、そのようなものがあると確信しております。これからも、オール京都で取り組んでまいりたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。 昨日、京都に学ぶ留学生の方と交流する機会がありました。一人の留学生が、「市長、『日本に、京都があってよかった。』というポスターを見ました。私も同感です。見てうれしかったです。私は京都が好きで京都の大学に来ました。あれは良いキャッチコピーですね。」。このようにおっしゃっていただき、外国人から褒めていただき、とても喜んでいます。あらためて京都は日本の宝、世界の宝だと思いました。 しかし、厳しい状況もあります。全国一律基準の相続税で、町家を売らざるを得ない状況になっています。せめて町家として使用している間は、相続税を猶予してほしい。また、「建築基準法」を、京都の歴史的都市の特性に応じて適用できるように、その在り方を考え直してほしい。いま、そのようなさまざまな取組、要望を進めています。しっかりと国に提案をしたことにより、観光を焦点に、また産業を視点に特区制度が認められましたが、さらなる権限の委譲等々、国に対して求めていきたいと思っています。 同時に、京都市民がいま何をするかということであります。5年前に新しい「景観法」が制定され、市民ぐるみでさまざまな取組が進められています。この夏から全力を挙げていきますが、2年後の9月中には、京都市内のビル屋上の看板は全てなくなります。チカチカと光る電飾看板は、全部撤去していただきます。京都市内4万の建物にいろいろな看板が付いています。そのうちの7割、2万8千が新しい条例の基準不適格ということで、撤去していただいたり、付け替えていただかなければなりません。市民の皆さん、また経済界の皆さんには大変なご負担を掛けますが、そこまでしてでも、この京都のまちの美しさにさらに磨きを掛けよう、そんな取組をいま進めてます。 関係者の皆さんに心から敬意を表しますとともに、私たちもしっかりと守って、頑張っていきたいと思っています。そして、素晴らしい景観を守る、文化を守る、文化遺産を守る、それと同時に創造していく活力ある京都をつくっていかなければならない。ぶれずにそうした取組を進めると同時に、この地域の未来をしっかりと見詰めながら、産業の発展も進めていきたいと思っています。 私は4年半前に京都市長に就任しましたが、そのときの市の職員は1万6150人でした。この4月は、1万3700人です。徹底した行財政改革を進め、民間でできることは民間に、民間の英知を集結しながら、この日本の宝、京都を皆さんと一緒に守り、発展させていきたいと思います。引き続き皆さんのご指導、ご支援、よろしくお願いします。 本日はありがとうございます。 |
京都創生取組報告 | |
皆さま、こんにちは。ただいまご紹介いただきました京都市京都創生推進部長の西野です。本日は多くの皆さまにご参加いただきまして、誠にありがとうございます。 さて、ご存じのとおり、歴史都市京都が誇る自然・都市景観・伝統文化は世界の宝、日本の貴重な財産です。これらを守り育て、そして未来へ引き継いでいくために、京都市では市民の皆さまとともに、全国に先駆けて、さまざまな挑戦的な取組を進めています。 京都市の取組ですが、大きく三つの分野、景観・文化・観光の分野にわたって進めています。 まず景観の分野ですが、平成19年から市民の皆さまの多大なご協力をいただきながら、全国で最も厳しいといわれる建物高さ規制をはじめとする、新景観政策を実施しています。最近では、屋外広告物について条例の基準に違反した状態にあるものを全てなくしていくために、対策を強化しているところです。 また、京町家の関係では、京町家を守るために京都市独自の制度としまして、平成17年に京町家まちづくりファンドを設けて、改修に掛かる費用を助成するなど、さまざまな取組を進めています。 次に文化の分野です。市内14カ所の世界遺産をはじめ、全国の約19%が集まる国宝、約15%が集まる重要文化財など、歴史的、文化的資産の保存、継承を進めています。さらに観光の分野ですが、外国人観光客や国際会議の誘致などに積極的に取り組んでいます。 しかし、京都だけが努力をしても解決できない課題が数多くあります。 まず景観の分野です。一つ目の京町家ですが、現在市内に約4万8千軒が残っていますが、相続税や維持管理の問題などで継承することが難しいケースも多く、毎年約2%が消失しています。また、「建築基準法」ができる前に建てられたものは、増築をしたりする場合に、いまの法律の基準に合わせる必要があり、伝統的な意匠、形態の継承が困難となっています。 二つ目は無電柱化です。電線や電柱のない美しい街並み景観をつくり出すためには、1キロメートル当たり約7億円という巨額の費用負担が必要となるという問題があり、なかなか進んでいません。パリやロンドンでは無電柱化の達成率がすでに100%になっており、その一方で京都市内では歴史的な景観に配慮すべき地域を含む、重点整備対象地域だけでも7%程度にすぎません。このままのペースで整備をしていくと、あと70年以上かかってしまうという状況です。 文化の分野です。先ほど、ご披露いただきました能をはじめ、伝統芸能、それから伝統文化や伝統産業などの、京都には他の都市にはない独自のものが数多く受け継がれていますが、担い手の高齢化、後継者不足、また伝統芸能を鑑賞する方が減っていたり、伝統工芸品へのニーズが少なくなってきているため、危機的な状況にあるものも少なくありません。 このように日本の原点ともいえる京都の景観、文化を、担い手や所有者だけに任せていたのでは、この先なかなか守り切れない面があり、一刻の猶予も許されない状況にあります。そのため、そういったものを保全、再生していくためには、国による支援がなんとしても必要になります。 そこで、「国家戦略としての京都創生」という考え方が必要になってきます。ポイントは、国を挙げて京都を再生して活用するというところで、京都創生を国の戦略としてしっかり位置付けることにあります。この考え方による取組は、梅原猛先生に取りまとめていただいた提言を受けてスタートしています。 京都市では「国家戦略としての京都創生」の実現に向けて、「国への働きかけ」、「市民の自主的な活動を支援する取組」、「京都創生のPR」、これら三つを軸に進めています。 特に一つ目の「国への働きかけ」が最も重要です。制度面や財政面で、京都が抱える課題の解決につながるように、毎年、機会を捉えて、国に提案、要望を行っています。また、国の関係省庁との研究会では、六つの省庁から26名もの幹部に参画いただいており、国の省庁の幹部に対して直接、京都の実情を訴えながら、国と京都市が一緒になって、京都の役割や活用方策の研究を進めています。 これまで国への働きかけなどを通して、提案、要望の一部はすでに実を結んでおります。まず景観分野についての成果ですが、京都の先進的な取組がきっかけになり、「景観法」や「歴史まちづくり法」という法律がつくられました。そして、これらの法律に基づいて、指定を受けた京町家や歌舞練場などの重要な建造物を修理する場合などに助成する制度がつくられました。そして、これを活用しながら歴史的建造物の改修や無電柱化などを推進しています。 上七軒歌舞練場は、この助成制度を活用し、屋根や外壁の修理が行われました。また、京都市では歌舞練場周辺の歴史的街並みの修理、修景工事に対しても助成しています。現在は上七軒通の無電柱化事業に取り組んでおり、今年度中の完成を目指しているところです。 文化についての成果です。京都市が所有、管理してる二条城では、国の補助制度を活用し、二の丸御殿、本丸御殿などの本格修理に向けた調査工事、障壁画の保存修理を進めています。しかし、本格修理となりますと、やはり多額の費用が必要となりますので、二条城一口城主募金へのご協力も広くお願いをしています。 また、文化財の防災面でも、国が新しくつくった補助制度を活用し、清水寺や、その周辺の文化財、地域を火災から守るために、高台寺公園の地下、清水寺の境内の2カ所に25メートルプール5つ分に相当する耐震型の防火水槽を整備すると同時に、法観寺の境内には、文化財に燃え広がらないようにするための放水システムを整備しました。これは、全国でも初めての取組です。 さらに三つ目ですが、文化庁の関西分室の設置拡充です。京都市をはじめ文化的資源が数多く存在する関西に、文化庁の機能の一部を設けてもらうように国に対して働きかけてきた結果、これまで京都国立博物館の中に文化庁の関西分室を設置していただいていましたが、昨年度に設置期限を迎えたことから、分室の機能を拡充したうえで引き続き残していただくよう国に対して要望した結果、今年度からも引き続き、機能を拡充したうえで設置いただいております。京都市も京都芸術センターにおいて事業実施するなど、積極的に協力していくこととしています。この後のパネルディスカッションでは、この関西分室の天野室長にもご参加いただくことになっています。 観光分野についての成果です。去年の1月から、観光庁と京都市の共同プロジェクトで、外国人観光客の誘致や受け入れ環境の充実などに取り組んでいます。これは、京都が世界トップ水準の外国人観光客の受け入れ体制に整えることで全国のモデルとしようとするものです。この共同プロジェクトも最大限に生かしながら、国が目指す観光立国の実現に向けて、京都が積極的に貢献していきたいと考えています。 このほかにも、多くの成果があります。例えば、京町家の再生に対して海外から多大なご支援をいただいております。これは、京都創生を海外に発信するプロジェクトの一環として、平成20年にニューヨークで開催した京町家シンポジウムがきっかけとなりました。アメリカのワールド・モニュメント財団というところから、京町家を改修して活用していくための二つのプロジェクトに対して多額の支援をいただくことができました。 京都創生の取組によって、国で新しい制度がつくられたり、制度が見直されたりしており、これが京都の歴史的景観の保全、再生、文化財の保全、継承の取組に対して大きな効果をもたらしています。そして、全国で進められている、歴史・文化を生かしたまちづくりを京都がけん引するという役割を果たしています。さらに、国が目指している観光立国日本にも大きく貢献しています。ここに京都創生の取組の大きな意味があると考えています。 これら京都創生の取組は、ただ国に求めるだけではなく、地元京都でも、市民の皆さまや企業、団体と、京都市が手を携えて、オール京都で進めていかなければなりません。そのため、本日の京都創生推進フォーラムを中心に、京都創生の取組の周知を図り、市民の皆さまの自主的な活動を支援することで京都創生を推進していこうという機運を高めるように努めています。 また、今年2月には首都圏で京都創生をPRする「京あるき in 東京2012」を開催し、京都ゆかりの企業、団体、大学の皆さまにご参画いただきながら、2週間にわたり東京で京都の魅力を集中的に発進いたしました。 その結果、京都市などの主催事業だけでも、約16万人もの方に参加いただきました。また、マスコミにも数多く取りあげていただきました。オープニングでは、女優の名取裕子さんや、華道未生流笹岡家元の笹岡隆甫さんにもご出演いただき、門川市長と対談していただきました。 京都創生の実現に向けて、新たな取組にも挑戦しております。国がつくった総合特区制度を活用し、京都が抱える課題の解決のために、国に規制の特例措置や、税、財政の支援措置を設けてもらえるよう、協議を進めています。 この特区は、京都観光の質をさらに高める5千万人感動都市を目指すものです。提案内容には、これまで京都創生でも国に訴えてきた京町家の相続税の問題や、無電柱化の問題をはじめ、京都創生に関わるものが多く含まれることから、個人的には京都創生推進のための総合特区といえると思っています。 国との協議では、厳しい指摘を受けているものが多くあり、特例措置の実現のためには高いハードルを越えていかなければなりませんが、この総合特区の取組も積極的に進めていきたいと考えています。 今後も、京都の持つ強みを最大限に生かし、魅力をさらに高めることにより、日本に京都があってよかった、世界に京都があってよかったと実感していただけるよう京都創生の取組をさらに進めていきたいと考えています。 最後になりますが、このシンポジウムをきっかけに、京都の魅力を再発見していただき、京都創生の取組を身近な人々にも広めていただければ幸いに存じます。皆さま方の一層のご支援とご理解、ご協力をお願い申し上げて、京都創生の取組報告とさせていただきます。 |
パネルディスカッション 「"伝統"の継承と創造」 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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