アラードです。こんにちは。私はアメリカ人ですが、どちらかと言えば国際人です。故郷はアメリカ・カリフォルニア州ですが、半分は、香港、台湾、シンガポールなどの東南アジア、半分はアメリカで育ちました。大学を卒業した後は、東京の慶応大学の大学院に2年間ぐらい在籍しました。金融業界に就職して、約25年間、東京、ロンドン、ニューヨーク、ロンドンと移り、現在の香港に至ります。
まず、私の父が住んでいる、アメリカ東海岸のナンタケットという小さなまちついてお話しします。京都にとって、何かいい参考になるのではないかと思います。
ナンタケットは、アメリカ東海岸のマサチューセッツ州に位置し、メルヴィルの小説『白鯨』の舞台でもあります。1830年代までは捕鯨で世界一栄えたまちで、1830年代には、アメリカで一番裕福なまちにまで発展しました。しかし、1830年代にまちの約3分の1を焼く大火事が発生したことと、ペンシルベニア州で原油が発掘され、捕鯨産業に打撃を与えたことにより、人口が減少し、新たな建物が建設されることもなくなりました。そのため、ナンタケットの風景は、今と昔で全く変わっていません。現在、ナンタケットでは非常に厳しい建設規制があることで有名です。例えば、新たにれんが造りの建物をつくることは禁止されています。また、自分の家を建てたり、リフォームしたりする場合は、町並みとの調和が必要で、審査委員会の許可が必要になります。さらに、建材についても、指定の木材を使わなければならず、使用できるペンキの色も限られていて、それ以外は一切使用できません。
このような建設制限が厳しい歴史地区においては、新しい事業を始める際でも、昔からの建物を活用しています。その例として、『ドリームランド劇場』があります。『ドリームランド劇場』は、もともとはキリスト教徒が集合してお祈りする場所でしたが、その後は、麦わら帽子の工場、スケート場、ホテル、劇場、映画館等に転用され、現在は、多目的ホールとして活用されています。つまり、新しいことを始める場合でも、昔の建物を壊すのではなく、活用すればよいのです。昔のものは使えば使うほど、なじみが出てきて、ナンタケットにしかない独特な雰囲気が出てきます。
また、規制の強化は、地価にも影響を与えます。規制により、建物が制限されることで、供給が減り、需要が上がるため、地価が上がります。リーマン・ショックの際には世界的に地価の下落が起こりましたが、ナンタケットの地価は高い水準を維持しています。
京町家は、ナンタケットの状況とよく似ています。町家は、昔の木造の建物なので、古く、冬は風が通り寒いです。しかし、そこで昔の人々と同じように暮らすのではなく、現在の暮らしに合わせて改装し、新しく活用することが大切なのではないかと思います。
毎年、数多くの町家が取り壊され、町家の保存は統計的に見ても厳しい状況です。しかし、木造の家屋はコンクリートの建物に比べて、排出する二酸化炭素量が少なく、地球温暖化対策として有効です。また、様々な研究から、町家を再生して使うと、修繕に様々な産業が関わるため、新しい建物を建てた場合よりも長期的に雇用の創出に効果があることも分かってきました。さらに、需給の面から見ても価値も上がるため、町家を再生し、活用してほしいと思います。ただし、町家の購入・再生には、お金もかかるため、誰にでもできることではないと思いますが、町家を活用したレストランやホテルなどを利用することでも、その価値の向上に貢献することができます。
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