京都創生推進フォーラム
シンポジウム「京都創生推進フォーラム」について

日 時 平成28年7月27日(水)13:30〜16:00
会 場 ロームシアター京都「サウスホール」


オープニング 素謡「頼政」
河村 晴道氏、片山 伸吾氏、浦田 保親氏、田茂井 廣道氏、橋本 忠樹氏、曽和 鼓堂氏
(公益社団法人能楽協会京都支部)
素謡「頼政」


あいさつ 立石 義雄 (京都創生推進フォーラム代表、京都商工会議所会頭)
門川 大作 (京都市長) 


パネルディスカッション 「京都から始まる日本文化の創生−文化庁の京都移転の先に−」

パネリスト 小林 一彦氏
(京都産業大学日本文化研究所所長)
  畑  正高氏
(株式会社松栄堂代表取締役社長)
  濱崎 加奈子氏
(公益財団法人有斐斎弘道館代表理事)
  森口 邦彦氏
(友禅作家、重要無形文化財「友禅」保持者)
コーディネーター
宗田 好史 氏
(京都府立大学副学長・生命環境学部教授)



パネルディスカッション  「京都から始まる日本文化の創生−文化庁の京都移転の先に−」




宗田氏

 京都は1978年に「世界文化自由都市」を宣言、伝統への洞察の下に未来を見据えて理想的な文化国家を目指す歩みを始めました。

 2002年には、京都大学名誉教授の河合隼雄先生が文化庁長官に就任、文化面で東京一極集中の是正を唱え、文化庁の関西拠点を京都国立博物館内に設置し、文化・景観・観光面を軸に京都創生を進める道を開きました。人口減少社会に突入した現在、安倍晋三内閣では、地方創生活動が国家戦略として位置付けられています。

 文化庁の京都移転が正式決定されたのを機に、文化の力で地方振興を図っていく政策提言が私たち京都の課題と考えます。皆さんから現状と振り返りをお願いします。



小林氏

 約14万5千人の大学生が在住する京都府は、全国でも有数の学生の街です。私は、国文学者として京都文化の研究に長年携わる傍ら、学生が地域社会に溶け込んで人材交流を図る「大学のまち京都推進会議」のサポートメンバーも務めています。学生が実際に地域の現場に出向いて教育・研究活動を行うアクティブラーニングや、地域の方と一緒に働きながら学ぶインターンシップを推進しています。

 祇園祭では、函谷鉾チームの一員となって保存活動に従事することで、机上では学ぶことのできない貴重な現場体験を積むことができました。近い将来、日本全国で地方都市再生活動を担う学生にとっても大きな財産となるでしょう。



畑氏

 私ども松栄堂は約300年前、京都市中京区二条で創業しました。香文化は6世紀ごろに中国から伝わり、平安文学の粋である『源氏物語』をベースに、香りの種類を縦線と横線で示す図柄が54帖の巻名にそれぞれ付され、特徴ある芳香が光源氏をはじめ登場人物像を暗示する役割を果たしていました。

 江戸時代になると幕府は「禁中並公家諸法度」を定め、京都に対し政治的な活動を禁じ、文化活動に専心するよう求めました。その結果、伝統文化が花開く寛永文化が17世紀前半に京都中心に広がり、その波は町衆も巻き込んで元禄文化へ発展します。江戸時代後期には、浮世絵技術が頂点を極める化政文化が江戸中心に栄えました。江戸時代における伝統文化の繁栄も京都を抜きには語れません。



濱崎氏

 私は京都文化に憧れ、大学では美学を専攻し、江戸時代中期の儒学者皆川淇園が創設した学問所「弘道館」(京都市上京区)跡に建つ家屋を保存していく活動を続けています。

 淇園は難解な学問の講義だけでなく、京都が育んできた茶華道・詩歌・能狂言や歌舞伎などへの造詣も深く、門弟は3千人を超えたとも言われています。淇園は、京都が歴史的に内包していた伝統文化を、さらに磨き上げる先導役を果たしたことは間違いないでしょう。

 翻って現代では、IT時代到来で時代の流れが速まり、じっくりと文化、芸術、芸能に向き合う機会が京都から失われつつあります。町衆自身が資金を持ち寄って文化資産を維持していく勧進活動もあまり見られなくなり、私は危機感を抱いています。



森口氏

 私は京都市立美術大学(現.京都市立芸術大学)の日本画科卒業後にパリの美術学校に留学し、師匠から日本文化の中で自身の道を見いだすように勧められて京都へ戻ってきました。

 帰国してからは、父森口華弘の下、友禅作家として学び始めましたが、重要無形文化財保持者(人間国宝)である父と比べられることに気が進まず、独自技法を追究するようになりました。成果が出せるようになったのは、世界的な芸術文化都市パリでの創作経験があったからこそと感じております。

 私が友禅作家として目指すのは、友禅の文様自身が自己主張せず、着る人を引き立てたり、着ることで楽しくなったりするデザインです。自由度が高い染色技法だからこそ可能であり、京都発祥の友禅文化は世界へ発信する価値があります。



宗田氏

 文化庁移転後について、どのような視点で考えていけばよいのか、ご意見をお聞かせください。



小林氏

 和食が日本の伝統文化として世界遺産に登録されました。日本料理店が世界に広まるにつれ、本来の和食の魅力を各国の人々に伝え切れていない様子も散見されます。この機会に、一度日本国内も含め、和食の原点を見直してもいいのではないでしょうか。

 和食には、食材や調理方法だけでなく、食器をはじめ料理を構成するさまざまな要素があります。アサガオの花を模した小皿や、アユを配置した陶器などは、日本人の美意識の源流にある見立てや取り合わせの妙を感じます。勅撰集『古今和歌集』から浮かび上がるみやびな情景が織り込まれることもあります。日本の伝統文化は、暗黙のうちに古典を踏まえていることが多く、千年以上も都が置かれた京都だからこそ、伝統文化の体現者としての役割を果たすことができます。



畑氏

 香文化は日常生活にも溶け込んでいます。仏教行事と線香の香りは切り離せませんし、『源氏物語』に登場する香りの文様があしらわれている和菓子も多くあります。

 歌物語『伊勢物語』なども含め、有名古典は日本人の心のよりどころであり、普遍的教養として京都文化の背骨のような存在になっています。残念ながら、時代の変化が京都にも押し寄せ、伝統文化を理解しようとする意識が世代を超えて薄くなりつつあるのが現状です。

 室町時代において、公家や僧侶中心に広まった北山文化が包含され、新しい庶民文化も融合しながら東山文化へと発展していったのは、日本文化史上大きな転換点ではないかと考えます。今後京都創生を考える際にも、伝統文化の根本に立ち返りつつ、新たな方向を探っていくべきでしょう。



濱崎氏

 現代は感性の教育に偏重しており、知識量を基礎とした知性の確立についてはあまり重視されていないのが実情です。京都の伝統文化を語るうえで基礎的な古典の知識は欠かせず、教養教育で培われる知性があってこそ豊かな感性が育まれます。京都文化を理解するためには知性と感性双方から捉える必要があるでしょう。

 最近は、訪問客などから、京都文化について、分かりやすく手早い解説が求められることが多くなりました。長い歴史を経た京都文化は分野ごとに奥が深く、表面的に単純化して説くことは非常に困難です。前提の知識が不足していると、説明があっても聞く人の理解が不十分に終わる懸念があります。



森口氏

 フランスでは、地方重視の人材育成のために、各地域で文化・芸術活動を育んでいく「文化の家」を置いています。文化の家は、役割を終えた教育施設等を利用するなど、既存の資産を最大限に活用しようとするものです。政策を始めてから約50年を経た現在、疲弊した地方都市を芸術の街に変身させたり、国政で文化行政のリーダーとして活躍する人材が育ったりしてきました。日本も、文化・芸術活動での人材育成は長期の時間軸で考えないといけません。

 個性あふれる才能が地域ごとに集まれば活力ある組織として機能するようになります。京都でも伝統文化だけでなく、前衛芸術などでも自由に活動できる環境が広まれば、新しい文化の創造も期待でき、京都創生を推進するエネルギーとなっていくと考えます。



宗田氏

 アートは人間を自由にするという言葉があり、自由な創作活動は活力ある社会をつくり上げます。

 多くの人が楽しく文化に触れる機会を増やすことが地方創生にもつながります。廃校になった学校施設などを利用して各地域に文化活動を奨励する中心施設をつくる必要があるでしょう。いまこそ京都は、文化力によって街を維持・発展させる地方創生モデルを全国へ発信することが求められています。



写真提供:京都新聞社






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