京都創生推進フォーラム
シンポジウム「京都創生推進フォーラム」について

日 時 平成29年7月27日(木)13:30〜16:00
会 場 ロームシアター京都「サウスホール」


オープニング 狂言「因幡堂」
茂山宗彦氏、茂山童司氏


あいさつ 立石 義雄 (京都創生推進フォーラム代表、京都商工会議所会頭)
門川 大作 (京都市長) 


パネルディスカッション 「京都から考える日本文化の多様性と地方創生」

パネリスト 小松 和彦氏
(国際日本文化研究センター所長)
  佐伯 順子氏
(同志社大学大学院社会学研究科教授)
  佐藤 洋一郎子氏
(人間文化研究機構理事)
  森 正美氏
(京都文教大学総合社会学部教授)
コーディネーター
宗田 好史氏
(京都府立大学副学長)



パネルディスカッション  「京都から考える日本文化の多様性と地方創生」




宗田氏

 今回で13回目を迎える「京都創生推進フォーラム」のシンポジウムですが、昨年は「京都から始まる日本文化の創生」ということで、文化庁の京都移転の先に何があるかというお話をさせていただきました。

 今年は、いよいよ文化庁の京都移転が本格的に決まり、既に4月から地方文化創生本部が活動を始めています。

 その中で、この京都が日本の地方創生のために文化を通じて何ができるか。我々京都の人間が地方のために、文化庁移転のために、どういう取り組みができるかということを掘り下げる会です。その意味で、「京都から考える日本文化の多様性と地方創生」というテーマを選ばせていただきました。

 今回は、初の「京都出身者がいない」パネルディスカッションではありますが、みなさんそれぞれが京都と深いかかわりの中でご活躍をされています。

 「京都から見た地方」、あるいは、「地方から見た京都」がどういうものかということが、本日の基本テーマであります。



小松氏

 東京生まれ東京育ちです。国際日本文化研究センターの所長になり5年になります。35年前に関西にきて大学で民俗学や文化人類学を教えていました。

 そのころ、多くの大学の先生方は「京都は平安時代から王朝時代の雅の文化を守っている」という京都の雅の部分に着目した意見を持っていましたが、私は、京都の雅ではない、裏側の影の部分にも目を向け、表裏一体で京都の全体象を見ようと考えました。

 京都は、よその地域からやってきたものを、貪欲に取り込みながら、そのエネルギーや力や、知恵やそういったものを取り込み、何か新しいものをつくり出してきています。

 私も、気がついたら京都や関西の文化の中に取り込まれて、京都の文化を何らかの形でつくる役割を担っているのかもしれません。

 京都を外から、或いは、まがまがしい領域、これを異界と呼ぶことにしていますが、「異界から見ていくと、見えてくる京都というのが何なのか」が、私の研究テーマでした。異界から見ることによって、京都の人々も自分たちの文化が、どのように外から眺められているのか気づきます。京都はこんなに素晴らしい所だとか、実はこういうところが遅れているとか。そうすることで、自分たちのプラスの面、マイナスの面を踏まえて、次の京都はどうすればいいのかというのを考えていく手がかりになるのではないかと思います。

 異界、あるいは外、周辺から京都を眺めて見る。それは、同時に日本を眺めることでもあると思います。

 花街の文化が京都をつなぐ無形文化遺産に選定されるなど、これまでは文化財として認められていなかったものが文化財として認められるようになってきました。私は、大衆文化の中にこそ未来の文化はあると思っています。日本人の文化を世界の中で考えるという形での大衆文化の研究が、未来の日本文化をつくる手がかりになると思っています。



佐伯氏

 私は東京生まれで大阪育ちですが、両親は山口県の出身で典型的な地方出身者です。

 しかし、京都の明治以降の近代化に貢献したのは、京都人というより実は長州人と会津人でした。敵対していた長州と会津が京都で手を結び、モダンな英学校を作り京都の近代化に貢献したというのは、京都ならではの地方の人々との関わりと言えると思います。

 そんな明治の近代化の中で、男女平等の動きが進む中、それ以前は男のコミュニケーションの手段だった茶の湯を、女性のたしなみ、習い事としてお茶を新島八重が女子教育に取り入れたのですが、八重が同志社にゆかりの人物ということもあり、京都と茶文化研究センター創設に至りました。

 同センターは、出来たばかりですが、「伝統文化の集積地としての京都で、茶を通して文化的に何ができるのか」を設立の目的としています。お茶の研究というよりは、社会とのつながりを考えていくことを意識しているので、産官学のいろいろな方に研究員として集まって頂いています。

 行政や出版社、茶商などいろいろな方の協力を得て、茶文化と社会とのつながりを考える研究会を開いたり、もう少し開かれた活動もしたいということで、シンポジウムも数回開いてきました。

 また、京都のとある方の考案から、正座が出来ない方や海外の方のために立礼のお茶の作法というものも生まれたのですが、立礼のための良い茶室がないということがありました。そこで、それなら、立礼の茶室のデザインコンペをやろうということで国際コンペも開催しました。アジア、ヨーロッパからもたくさんの応募があり、お茶を通して小規模ながら色々な国の方と交流が持てました。



佐藤氏

 日本の文化、生活文化を決める大きな要素として「森」を考えたいと思います。「森」という観点から日本の文化を見ると、北の落葉樹、南の照葉樹に分けられます。

 食文化でも同じような観点から見てみると、東西があります。例えば、ネギの場合、京都のネギは九条ネギに代表されるような青ネギが食されることが多いが、関東では白ネギです。すき焼きにしても、関東では白ネギを使って甘い味つけをしますが、京都ではタマネギを使います。正月の餅も京都では「正月早々、角の立つのは、かなわん」と言って丸い餅を食べますが、東京では、のし餅を切った、角餅を使います。

 実は、京都は、非常に北と南、東と西のハイブリットな文化と言えます。

 京都は、各地の食材を集めて利用するのが上手です。和食の出汁にしても、北の昆布と南のかつお節をうまくミックスして、合わせ出汁をつくりました。

 京都は、本来あまり物はないのですが、物と情報を集めることが上手です。他所から物を集てきて、一つの物にするということに長けています。それは、京都には昔から雅な方々がいらっしゃったので、いろいろな人がいろいろな所から京都に集まる、そういうのが原因ではなかろうかと思います。

 東西の境界、南北の境界、こういう上に京都が乗っかっている。いろいろな意味で地の利が良かったということが、もう一つの理由として挙げられると思います。



宗田氏

 物だけでなく、人間も地方からどんどん京都に集まってくる。そのエネルギーを京都は文化の発展に使ったのですね。常に集まるものがあるからこそ、京都が持続していくのだと思います。



森氏

 伊勢出身でして、最近式年遷宮がありましたが、伊勢の文化継承の仕組が、実はとてもよくできていると、外に出てから感じることが多くありました。私は文化人類学を専門にしていて、特にフィリピンのイスラムの研究を専門としています。

 また、京都に来て早20年ですが、京都市ユースアクションプラン委員会のメンバーとして、京都学生祭典の手伝いをさせてもらっていたり、大学のある宇治では地域連携事業として「地(知)の拠点事業」というのもやっています。

 地蔵盆の調査や、「宇治茶文化博」、「親子で楽しむ宇治茶の日」、「利き茶めぐり」など活動を通じて、そうした地域文化を経験したことがない若い学生たちでも、タンポポの種が遠くに飛んで芽が出るように、京都で出合ったものを地方に持っていって新たな文化を育てていってほしいと思って活動しています。

 足元の文化の見直しと共に、京都の方がどれぐらい地元のことを知っているのか、それをまた若い世代や子供たちにどんなふうに伝えていけるのかということが、とても大切だな感じています。

 地域の行事、参加の仕組み、そして何よりもそういった体験を若い人たちが取り戻すことをどうやっていくか。そのことによって、「常若」という、行事や信仰やコミュニティーが再生産されていきます。幼いときに見た式年遷宮での誰かの法被姿が、また20年後におじちゃん、おばちゃんが前の式年遷宮に行ったときのあれだよというような話がされ、信仰が再生産されていく。そういう記憶装置としての文化の力みたいなものを改めて見直して、できればそこに新しくいらっしゃる外国の方、遠い他者と思える人たちの中にも、私たちとつながりがあると思うので、そういう人たちとどうつき合っていくかも一緒に考えていけたらと思っています。



宗田氏

 文化庁移転を直前に控え、私たちは、日本の文化、あるいは日本の歴史がどう変わるかというような重要な節目に立っているのではないかと思います。来年が明治維新150年、戦前の75年と戦後の75年の節目にもなり、近現代の150年を終えた後、日本の文化をどう発展させていくかを考えるべき時期でもあります。

 私たちが近代に、「これが日本だ」、「これが京都だ」と決めつけた文化にこだわることなく、より自由に新しい発想を、日本の文化の創造のために広げていく、そうすることによって、国の形、特に東京と地方の関係が変わってきます。

 日本を、日本人をもっと自由にする大きな流れをつくっていくことが京都創生の願いであり、十数年取り組んできた京都創生が、文化庁移転と日本の創生につながる大きな流れになっていきます。そういった意味で、今年は、大衆文化、多様性ということが大きなキーワードになったと思いますが、来年、再来年とこれからも新しい京都創生の取組をご覧ください。








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