少人数出版社・書店に迫る厳しい現実

 出版業界は出版社、取次(問屋)、小売店(書店)で構成されています。出版社には、小学館、講談社、集英社をはじめ全国に約4100社あり、そのうち約8割が東京に集中しています。出版社の多くは、一部の大手以外、従業員が十名以下の中小零細企業がほとんどです。京都府内は、出版社が弊社を含め140社ほどあり、東京に次いで多いところです。歴史が古いうえに、社寺や大学が多い地域なので、学術、仏教、美術といった専門書の取り扱いに特徴があります。

 出版売上の第一位は情報出版社系のリクルートさんで、2006年度に約4875億円の売上を出されています。この業界は全出版社数の一割に満たない300社ほどで総売上の8割を占める、企業間格差の大きい業界です。

 取次(問屋)は、日本出版販売、トーハン、大阪屋の3社が有名です。小売で一番多いのが一般書店で、全国に17000店あります。ほかに、コンビニ、大学生協、キオスク、さらに海外でも販売されています。

 必ずしもそうでありませんが、定価1000円の本の場合、出版社が企画して原価500円で制作し、利潤の200円を加えた700円で取次に卸します。取次は80円を加えた780円で書店に卸し、書店・小売店では、再販制度があるので全国どこでも1000円で販売される仕組みになっています。本屋は委託販売が一般的ですので、問屋から来た本の代金はいったん払わないといけませんが、返品すればお金は戻ってきます。この制度があるために出版社は、当面の資金目当てでとりあえず本を取次店経由で書店へ送り、返品が繰り返されるといった、自転車操業に近い状況のところもあります。売れそうもなさそうな本が小売店に送られてくると、店頭にも出さずに返品する「ジェット返品」があとを絶たないのはこの制度の弊害でしょう。

 現在、市場に流通している本は約80万点、出版点数は一日平均で350点もあるので、書店に並びきらないほど供給過多状態です。出版社・取次主導で書店へ本が送られるため、小さな本屋さんは、新刊、売れ筋の確保が困難で、このような本を求める消費者は大型書店、ネット書店へ流れていきます。小さな本屋さんの売り上げを支えてきた雑誌・コミックなども、コンビニやBOOK OFFなどの新古書店、漫画喫茶などに食われていますので、ここ十年間に全国で4000軒以上の本屋さんが消えていきました。

 紀伊國屋さんや大手書店さんは、囲い込み戦略を取って出店競争をしているので、書店合計で売場総面積は16万坪ほど増加しましたが、完全にオーバー・ストア状態です。あとは企業の体力勝負ではないでしょうか。われわれ出版社の企画力低下に加えて、ネットゲームによる活字離れなどで本が売れないので、出版業界は苦しい状況が続いています。



京都本は観光大使

 京都の書店は、ここ数年でドラスティックな変化がありました。20年ほど前は、四条河原町界隈に12軒ほどあった本屋さんが、いまは1軒しか残っていません。茶道書専門の河原書房と、料理本・京都本を中心に扱っていた祇園書房の2店は、個性派書店の成功モデルだったのですが、相次いで閉店したのはとても残念です。

 書籍全体の販売数は減っていますが、この時期になると「秋の紅葉シーズンは京都へ」ということで、首都圏を中心とした大手の書店が自主的に京都フェアを開催します。最近の傾向としては、メジャー雑誌の『るるぶ』『まっぷる』などを並べるだけではなく、コトコトさんの『らくたび文庫』とか、リーフ・パブリケーションズさんの専門情報誌など、その地域では普段見慣れない京都本を仕入れて、多様化する読者のニーズに応えようと工夫を凝らしています。

 京都は、新しく観光対象が生まれなくても、年間5000万人近くの観光客が来られています。1200年以上培われたコンテンツのおかげでリピーターの観光客が多くなっていますので、ビギナー向けの情報誌ではなく、少しディープな内容の京都本の人気が高くなっています。エッセイストの「麻生圭子さんが選ぶ」と銘打ったものなど、視点を変えた情報誌も好評です。

 常に歴史の舞台となってきた京都が中心になる学校の歴史教科書も、京都本と言っても過言ではありません。授業で学ぶうちに京都に興味を持ち、いつか行ってみようと思うのも当然です。司馬遼太郎さんが書かれた『竜馬がゆく』『燃えよ剣』など、京都を舞台にした小説がきっかけで興味を持たれる方もいらっしゃると思います。そこに修学旅行で体験とか、テレビドラマとか、メディアがからんで、どんどん京都ファンが誕生しています。

 最近では「京都検定」など、地域の歴史、祭りなどについて知識を深める機会が増えています。京都のことを何も知らない私が言うのもおこがましいのですが、京都の知識は、地元に住む人の必須条件のような気がします。観光客から質問されても答えられないと、やはり恥ずかしい。このためか、ディープな内容を詳しく解説した京都本が売れています。意外に思われるかもしれませんが、もともと京都本を一番多く購入するのは、京都の人たちなのです。

 観光客が京都のまちを楽しむためのガイドブック的な要素に加え、京都に住む人たちが郷土愛を再認識するためのツールとして、京都本はますます発展していくことでしょう。



独自の企画で活路を開く

 弊社は、最近では観光関連の企業・団体と共同で、京都関連の書籍を数多く出版しています。海外観光客を意識して、英語はもちろんのこと、ハングル語、中国語、台湾語の『京都の桜』とか、『京都の紅葉』なども出しています。

 私は営業担当として全国の書店を訪問して、自社の新刊とか既刊本を店頭に置いてくださいとお願いに回っています。近畿圏はもちろんのこと、北は札幌から、南は鹿児島までの主要書店に訪問しています。京都本をセールスするにあたり関西弁でお薦めすると、産地直送で地元からわざわざ京都の本を売りに来たということで、好意的に見ていただけます。

 弊社では、京都観光に来られる方が必要なときに本をお買い求めいただけるように、市内の有名な社寺の売店や、最近人気の複合施設、フローイングカラスマなどでも書籍を置いてもらうようにしました。また、新しい試みとして、企業とタイアップして、ホームページ上で本を売ってもらったりもしています。メディアミックスで、さまざまな場面でお客さんの目に触れて、少しでも売り上げが上がるように日々努力を続けています。

 競合出版社さんとの差別化には、特集記事が一番です。弊社は、得意な「庭」の企画で「京都坪庭拝見」という本をつくっています。庭に関する企画は、これに限らず、町家と組み合わせて「町屋の坪庭」など、組み合わせを考えれば無限の広がりがあります。自分たちが考えた企画を、どう売り上げに結び付けるかという問題はありますが、企画の種は京都には無限に存在します。

 コトコトさんが企画した『らくたび文庫』の「京の庭NAVI」で枯山水と池泉回遊の庭園を紹介した本が若年層に人気が出て、売り上げを伸ばしておられます。素晴らしい着眼点で企画して、本のかたち、値段などを工夫すれば、京都本はまだまだ成長する分野だと再認識させていただきました。やはり京都は、奥が深いですね。

 弊社の出版理念は「京都の美と、古きよき伝統を伝える」です。京都本を扱う出版社は、各社等しく京都の恩恵を受けています。その恩恵に応えるべく、活字文化を通じて地域貢献することが出版社の使命だと肝に銘じて、京都創生に側面から協力したいと考えております。

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