見学:お話と案内
梶 田

 どうもこんにちは。ようこそ御参詣、御参加賜りましてありがとうございます。21年程前からこちらを預かっております、梶田真章と申します。今日は大変お寒い中御参詣いただきましてありがとうございます。10分ほどしかしゃべりませんので、御辛抱ください。ほっといたら2時間でもしゃべりますが、聞く側にしたら退屈かと思いますので。しばらく当院の事と、それからちょっと思っていることをお話したいと思います。

 こちら、法然院と申しておりますが、もともと善気山萬無教寺(ぜんきさん ばんぶきょうじ)と申しまして、御手元のリーフレットには名前が書いてございますが、萬無というのは知恩院の第三十八代の御住職の御名前で、その萬無というお坊さんが弟子の忍澂(にんちょう)という方とともに江戸時代の初期に、この法然院を現在の形になさいました。法然院ということで、庵としては法然上人当時、800年前まで遡りますけれど、寺になりましてからはまだ325年程の歴史でございまして、京都の中では比較的新しい寺でございます。本堂は阿弥陀様をおまつりしております仏殿、「ほとけのとの」と、我々が座っております拝殿、「おがむとの」との2つの建物からできておりまして、中がひとつの空間になっております。外から見ていただくと、屋根が二つになっておりまして、中が一つになっているという面白い作りとなっておりますので、また後ほど廊下から見ていただきますけれども、二棟で一つの本堂になっているということでございます。

 当院の特徴は阿弥陀様の両側に窓がございまして、今、皆様は真西に向かって座ってらっしゃいます。ですから左側が南になりますので、今日、このように晴れた日は南の方から主に自然の光、太陽光が入りまして、辺りが非常に明るく、阿弥陀様を拝んでいただけるというのが当院の本堂の一つの特色でございます。よくお寺へ行かれますと中が暗くなっていて、蝋燭の光だけで仏様を拝むということが多いですけれども、当院は自然光とともにその日の雰囲気が変わると、そういう本堂でございます。今日はその良いところが出たのではないかなと思っております。雨の日はものすごく暗くなりまして、その日の雰囲気がそれぞれ違うというわけです。

 それから、阿弥陀様の前の床の上に直接25輪の花を並べさしていただくというのが当院独特のかたちでございます。今ちょうど白い菊の花を25輪並べておりますのが拝んでいただけるでしょうか。皆さんにお渡ししておりますパンフレットでは、ここに春先の3月4月ごろの椿を並べております。3月4月は椿、5月つつじ、6月7月あじさい、7月8月ムクゲ、9月芙蓉、10月以降、1月2月ごろまでは菊の花を並べさせていただいております。毎朝25輪並べさせていただいております。夕方になりますと、また下げまして水に浸けさせていただきまして、毎朝傷んだものから換えさせていただくと、そういうことをずっと、たぶん江戸時代から続けております。それが当院の特色でございます。

 阿弥陀如来像を中心に、皆様方、向かって右手に観音菩薩像をおまつりしてございます厨子がございまして、左側の真ん中に法然上人の木像、右側に勢至菩薩、一番左端に知恩院の第三十八世萬無上人の木像をおまつり致しております。

 こちらは法然上人のお教えを頂戴して、それを伝えていこうという、それが目的でございますけれども、江戸時代の修行道場という性格から、現在は散華寺という形に変わりまして、現在は600軒の檀家によって守っていただいております。したがって通常は中を法事のために主に使っておりますので非公開とさせていただいておりまして、年に2週間だけ、春と秋に、特別公開という形で一般の方に入っていただいております。11月の1日から7日まで秋の公開が終わりまして、次の春の公開が4月1日から7日。今、通っていただいた廊下の右手にございました古木の椿がちょうど4月の初めに盛りになりますので、その時期に合わせて春の公開というのを致しておりますので、どうぞ椿のお好きな方は、その時にお越しください。

 今日は京都創生というタイトルでございまして、あまり私が好きな言葉ではございませんけれども、友人の山本さんが講師ということで今日はお引き受けしたわけでございますが、講師の山本さんと私とはどんな仲かと申しますと、ホテルのツインに一緒に泊まったというぐらいの仲でございます。ですから今日も山本さんから「会場はここで」、ということで、本当に寒い中、私は「やめとかはったほうがええんじゃないか」と言ったんですが、案の定寒い日になりましたが、また逆にこの京都の冬のこの寒さ、これをしみじみと感じていただくことができるというのも結構意味のあることじゃないかなあと、思っております。

 私の考えでは要するに京都っていうのはたくさんの特色のある地域の集まった所でございます。それぞれの地域に皆様方が誇りをお持ちいただいて、それぞれの地域を個性的に守っていただくと、きっと京都は全体として素晴しい町でありつづけるんじゃないかなあというのが私の思いでございます。そういう意味で私はこの京都の鹿ケ谷という所に誇りを持って、この鹿ケ谷を預かっていきたいなあと考えております。私は祇園祭は「私」の祭と思っておりません。あれは「まち」の方のお祭りでございます。私は鹿ケ谷の人間で、ここを大事にしていこうと思っております。それが結果として京都全体の魅力になるんじゃないかなあと私自体は思っておりますので、これからもそういう心持で預かっていければと思っております。

 それから、京都というと春と秋、特に11月はたくさんの方が外から来られまして、うちも11月の下旬は普段とは違って、境内もお人さんで溢れかえります。なぜこれだけの人が来られるのかなあといつも思うんですけれども、それは宣伝される方があるからでございます。しかし同時にやっぱり日本人は、昔は作物を育てていて収穫を楽しみにし、秋は実りということを感じた、そういう民族だと思います。そういう中で、自分はもう米を収穫はしなくなったけれども、やっぱり秋になると、紅葉を見に行くということは、きっと何か実りというものを追体験しているのかなあと私自体は思っております。

 今日、どうしても来年は今年と違ったことをしていかなくちゃいけないという、それに皆急かされている世の中でございまして、そこにもちろんいろんな発展というものもあるんでしょうけれども、でもやっぱり人間生きている時、そればっかりではしんどうございます。お寺という場所は、何百年、毎年同じことを繰り返してきて生き残ってきたところでございます。毎年新しいことを考えるのもようございますけれども、でも毎年同じことを繰り返すっていうことも結構価値のあることなんじゃないかなあと。そのことをつまらないと思うのか、素晴しいと思うのか、それによってお寺というものに対しての皆様の認識が分かれてくるのではないかと思います。観光に来られている方も毎年同じことを繰り返すということ、繰り返している姿を御覧になるということに、きっとほっとされることがあるのかなと思ったり致します。まあ、京都にはそういう価値があるのではないかなあと思います。皆様方も、変わらないことも結構素晴しいことであるということを、またこういう所へ来ていただくと感じていただけたら嬉しいかなと思います。もちろん、でもそれだけではなかなか、この現代日本では御飯が食べられないということがあったりします。この辺がなかなか難しいところでございます。来年、今年と違ったことが考えられた人はお幸せな方でございます。そういう人ばかりではなく、同じでもいいやないかなあということを思い出していただく場所も、なくてはならないのかなと思っております。

 今日は山本さんから「ブラウン管の裏から見た京都」という題でお話があるということでございます。紅葉見に来られた方がよくおっしゃいますのは、「ああ、テレビで見たほうがきれいやったね」とおっしゃったりします。せっかくここに来てらっしゃるのに、テレビで見た方が良かったという御感想がある。せっかく観光していただいていて、もったいないなあと私はいつも思うんでございますが、要するにそれは、ものを見るという「見物」というものに終わってらっしゃいまして、本当に観光されているということにはなっていない。光を心の目で観るという、その土地土地の、命の営みを自分の目で確かめ、肌で感じ、心で想像していただくという、これが本当にお寺に来ていただくということの意味じゃないかなあと思っております。そんなことを、先ほどから申しましたが、そんなことも感じていただきまして、今日はひととき、325年程でございますが、様々な方の思いでこの場所は伝えられてまいりました。目に見えているものでございますけれども、でも、そのものには、必ず人の思いというものがこもっております。特にお寺は人の思いが交錯し、そのことにより残ってきた場所でございます。皆様方もぜひ今日はこのお寺の、お寺にこめられました様々な先人の思いと出会っていただいて、2時間ほどゆっくりとお過ごしいただければと思います。

 あと、方丈のほうを御拝観いただきまして、先ほどの部屋のほうへ戻っていただければと思います。方丈のほうには文化勲章受賞者・堂本印象筆の、新しい1971年作、34年前に描かれました襖絵と、それから400年前の桃山時代の重要文化財になっております狩野光信筆の襖絵が並んでございます。その、時を超えて並んでいる襖絵というものも併せて御覧いただければと思います。御質問もあるかもしれませんが、今日は時間でございますので、皆さん、改めまして、ちょっと違うんですが、来月1月22日に朝日新聞の主催でここで、私の話を聞くという会がございますので、またぜひお越しください。「日曜広場」という催しでございます。御興味ございましたら、また来月に御参加くださいますようにお願い申し上げます。

(会場見学)

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