講演:「生活提案誌から見た京都」
大 矢

 今御紹介いただきました「レタスクラブ」の大矢です。今日はどうぞよろしくお願い致します。寒いのに一杯のお客様がいらっしゃって私などがお話させていただくのは甚だ僭越なんですが、東京で「レタスクラブ」という雑誌を通じて感じたことをざっくばらんにお話させていただければと思います。どうかひとつ寛大なお心で聞いていただきますよう、よろしくお願いします。

 私は大阪で生まれ、育ちまして、最初OLをして、それから大阪の出版社に入り、花の万博での広報を担当しました。1990年の11月からは東京の「レタスクラブ」という雑誌に入りました。ですから15年以上、そのうち5年編集長をやっておりまして、その前6年、副編集長の時代に、旅のページを担当しておりました。この雑誌は10日と25日、発売しております。昔、西友というスーパーで出していた雑誌ですので、定価も260円と非常に安いんです。お料理が中心と思われがちですが、衣食住と色んなページがありまして、その中に毎号あるのが、「はずせる保存版」という旅のページです。これもずっと担当しておりました。今回はちょうど神戸空港の開港がありましたので、神戸・芦屋を選んだんですが、このままミニガイドブックとして持って歩いていただけるようになっています。

 京都に関しては旅のページでも取り上げますが「お取り寄せ」というのも読者にとても人気です。京都の美味しい物を取り寄せるとか、色んな形で雑誌のコンテンツ、記事の内容として京都を取材させていただきまして、関西にいた時よりも東京に行ってからの方が京都について考えることが増えました。

 「レタスクラブ」をお読みいただいているのが、25歳から35歳の女性で、今年創刊19年になりますので非常に幅広く、親子2世代で読んでくださる読者もいらっしゃいます。今回、私がここへ呼ばれたのは、その方々が御覧になって、京都にどんな魅力があるのかということを話して欲しいということなのかなあ、と思いまして色々考えて参りました。私だけの経験では浅いと思いましたので、読者に向けて、今回ここへ伺う前に「レタスクラブ」のホームページで「京都について教えてください」というアンケートをアップしました。質問はだいたい6〜7項目作ったと思います。「好きなところはどこですか?」とか「行ったことはありますか?」といった質問をしました。するとなんとアップしてその日のうちに1000件、千人の人が一日で回答してくれました。私も「全部読まんとあかんのか」と思ったんですが「京都」というブランド認知がすごいなと思いました。「京都について教えてください」と言えば、皆さん何か答えてくれる。なかなかこれだけ認知度のある観光地は他にはないなと改めて思いました。あんまり多かったので,途中で打ち切りまして、合計3000名様からお寄せいただいたアンケートの答えを読んで参りました。今日はその辺を中心にお話しようと思っています。とは言え、「レタスクラブ」での旅のページで一番人気なのはディズニーランドです。1990年代に私が「レタスクラブ」に入った頃は、京都はすごく人気でして、桜の時の京都と、紅葉の時の京都と年2回、少なくともどちらか年に1回、というような形で必ず取り上げていました。しかもその頃は、雑誌というのは3ヶ月前に製作します。例えば、今、この寒い時期には、5月の取材をやっている。だから旅のページで桜とか紅葉とかを取り上げようと思うとつぼみも無いときに取材に伺ってページを作らないといけないので、毎年1年前にポイントを決めたところに桜だけ撮りに行く。紅葉だけ撮りに行く。それで次の年にまた同じ場所に行ってお菓子だったら新作のもの、というように7ページの旅のページを2年がかりで作ってたんですね。ところがバブルがはじけまして、時代のスピードが速くなり、景色が変わるようになったり、お店が潰れたりと色んなことがあって、せっかく去年一所懸命撮っても使えない、ということがあって、最近はやめるようになりました。

 これは「レタスクラブ」という雑誌の特性だと思うんですけれども、お料理のページに関しても、例えば今回は卵ですけれど、卵を素材にしてお料理の先生にレシピを作ってもらいますよね。でも、そのままは掲載しないんです。まず撮影に行って先生に作ってもらって、それを担当者が食べて味を覚えます。それから会社の中にキッチンスタジオがあるんですが、出来上がりの写真と先生にいただいたレシピと材料を用意して、全然御料理が得意じゃない学生アルバイトさんとかを「試作さん」というんですが、毎回呼びまして「作ってみてください」というんです。で、同じように再現できるか、誰が作っても同じような味になるか、手順で分かりにくいところは無いかっていうことをチェックして、そこでもう一回レシピを練り直して、味付けも確認して、更に最近はヘルシー志向が強いので塩分ですとか、カロリーですとかも全部調整します。何回も何回も試作して、最終的に固まったのを掲載するんです。2週間に1回の雑誌なんですが、実はバックでそれだけのことをしてるんです。だから旅ページに関しても1年前に行くっていうのは普通のことだなと自分達ではそう思って編集を続けています。

 一番人気のディズニーランドですが、結構節約好きの主婦のお宅に取材に行きましても、ディズニー貯金ていうのをやっておられるんですね。ディズニーランドに行くための貯金。マイホームのための貯金とか以外にです。ディズニー貯金ていうのは、主婦雑誌の間では当たり前に通じる言葉になっています。何でそんなにディズニーがすごいかって言いますと、やっぱり素晴らしい徹底したファンタジーなんです。もう20年超えまして2代目になってますけれど、親が好きだった。もう最初からディズニーの価値感で育った人が子供さんをお育てになって、子供が今度は好きになっている。例えば、大阪出身の私が言うのも何ですが、大阪のUSJはちょっと目を上げると高速道路が見えたりして、ファンタジー、ドリームの中に没頭できないんですけれど、ディズニーランドはそこに入ってしまうとおとぎの国に行ったみたいに、他の日常的な現実が何にも無いんです。それも徹底した工夫をしていて、掃除の人から売店の人まで、徹底的にディズニーイズムというんですか、だらだらしている人が一人もいない。いつ行っても電球1つ欠けてるところが無いんです。絶対に裏切られない。期待したものが必ず満たされる。しかもあれだけ人工的な場所なのに、たくさん四季折々のイベントを作っておられて、今だったら寒いじゃないですか。でも、路上でダンスのイベントが突然始まる。皆さんわざわざそれに参加するために、お子さんにドレス着せていって、お姫様のダンスを行列になってやっておられる。「ディズニープリンセスデイジー」っていうのがあるんですが、パレードでお花の香りが漂ってくるんですね。だからすっかりだまされるんですね。そこに行ったらディズニーランド以外のことを考えないで済むし、色々変わってグッズもいつも新しいのがあるので、皆さん喜んでお金を払っておられる。普通の観光地へ行くと「高いなあ」とかおっしゃられるのにね。一生懸命節約して、夢の国でぱーっとお金を使う爽快感がディズニーランドにはあって、非日常が徹底してるんですね。そうなると、また行きたいということになるので、雑誌に新しい情報を読者が求められるんですね。雑誌は読者の人気の高いところを取り上げると、それでたくさん本が売れますから、ディズニーランドを取り上げた、本が売れた、読者が喜んだ、また取り上げた、また本が売れた、という麗しいディズニーランドの循環がずっとあります。

 私もディズニーを全面的に応援しようと思ってるわけではないんですが、やっぱり人気がある、リピーターがあるというのは雑誌は必ず取り上げますから、そういう風にカルチャーの再生産みたいなことがモデルになってるんじゃないかなと思っています。

<つづく>

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