基調報告「京都創生について」:京都市総合企画局京都創生推進室長 白須 正

 ただ今御紹介いただきました京都市の白須でございます。本日は京都創生の取組について紹介させていただきます。

 京都創生とは、京都の自然や都市景観、伝統文化を日本の歴史文化の象徴として守り育てることで、京都の魅力に磨きをかけるとともに、そのすばらしさを国内外に発信することを進めていく取組です。京都に受け継がれてきました歴史や文化、景観は日本の財産であり、世界の宝であるとも言えます。今京都では、これらの財産を市民の手で守り、育てるとともに、国に対して積極的に活用していくことを提案しております。京都市では歴史的な景観や文化を守り伝えるため、全国に先駆けた数々の取組を進めてきております。しかしながら、これらの取組にもかかわらず、急激に進む都市化や近代化、更には世界規模で進むグローバル化の影響により、このままでは京都が持つ美しい景観や文化が失われてしまうかもしれないという厳しい状況に直面しております。

 こうした中、平成14年に日本建築学会や京都経済同友会から京都を守るためには国を挙げた取組の必要があるとの提言が出されました。京都市ではこれらの意見を重く受けとめ、平成15年に梅原猛先生を座長とする京都創生懇談会を設置し、国家戦略としての京都創生の提言をまとめていただきました。この提言では、日本における京都の重要性を訴え、京都を守り生かす国家戦略としての京都創生の必要性を提示し、国に4つの提案を行っております。提言を受け、京都市では京都創生策をまとめ、景観・文化・観光の3点から新たな取組を開始しております。
 以下、景観・文化・観光の順で京都市の取組、国への提案、要望内容につきまして御説明致します。

 初めに景観についてです。京都市では、京都らしい町並み景観の保全・再生の取組を進めております。京都市の市街地は京町家を中心に落ち着いた町並みが継承されてきましたが、都心部で7年間に13%が消失するなど、近年この京町家が急激に減少しております。京都市では京町家の減少を防ぎ再生するため、景観まちづくりセンターを拠点に様々な取組を進めてきております。本年9月には京町家まちづくりファンドを創設し、京町家の改修・助成も行って参ります。2番目は電線類の地中化です。京都市では歴史的な景観を維持するため、これまで御所の周辺や祇園の花見小路などで事業を進めてきました。今後更に150キロメートルの地中化を計画しておりますが、今のペースでは100年間も必要なため、更なる一層の財政措置を国に求めております。京都市の屋外広告の規制は、市内の全域に及んでおりまして、その歴史、規制の厳しさとも日本トップの位置にありますが、届け出がされていない物件や違反物件も多く、美しいまちづくりのためには規制の徹底や更なる誘導などが必要です。また、社寺の庭園などから見る美しい眺望景観の保全も重要な課題となっております。昨年、京都市の景観保全の取組を参考に、国においては景観法が制定されました。京都市ではこの景観法を最大限活用し、京都の景観を更に美しくするため、現在各界の専門家による審議会を設置し、検討作業を進めているところです。

 続きまして2番目の文化です。京都には多くの伝統文化が伝えられております。しかしながら、能、京舞、茶道、華道、工芸など、京都の誇るこれらの文化が受け継がれていくためには、その関連産業も含めた総合的な対策が必要です。また、華麗で、しかも繊細な独自の文化を継承し発展してきました京都の魅力を理解していただくためには、これらの伝統文化が息づいている姿を国内外に発信できる拠点も必要であります。そのため、日本の歴史・文化が学べる歴史博物館や伝統芸能文化センターを京都の地に設立することを国に求めております。京都には我が国の国宝の20%、重要文化財の14%が存在しておりますが、その保存・修理に対する補助は必ずしも十分ではございません。これらの貴重な文化財を守るためには総合的な取組が必要となっております。

 最後に観光です。今日本では、訪れる外国人旅行者を2010年に倍増させ5000万人にしようとしております。観光は経済面だけでなく、お互いの文化を理解し、世界平和につながることから、非常に重要です。京都はその拠点にふさわしい地でございます。京都市では外国人観光客200万人を目指しており、国に対して京都を外国人観光の重要拠点とするように求めております。

 以上、京都創生の取組の概要ですが、その実現に向けまして対外的にも一歩一歩着実に進んでおります。1つ目が京都を愛する有識者の皆様による京都創生百人委員会の設立、2つ目が国会における議員連盟の設立です。しかし、京都創生を進めるためには京都の歴史や文化を守り、未来に引き継いでいくために一人一人の市民の皆様が取組、その活動の輪を広げていただくことが大切であると考えております。このため本日の集まりでございます京都創生推進フォーラムが村田純一京都商工会議所会頭を代表に、本年6月13日に設立されました。この推進フォーラムは京都創生で取り組む景観・文化・観光の3分野で自主的な取組を進めている団体や企業、個人の皆様が集まり連携することで、京都全体に取組の輪を広げていこうというもので、現在450の会員の皆様に御加入いただいております。フォーラムでは、交流・連携を深めるための本日の催しを初め、ホームページによる情報交換、セミナーの開催などを予定しておりますが、今後活動の輪を更に広げて参りたいと考えております。地方、国ともに財政が非常に厳しい時ではありますが、京都創生の実現の道はそういう意味では決して平たんではございません。また時間も要します。しかしながら、国際化が進む中で日本とは何かが問われている今こそ、京都がその役割を果たす時だと考えております。京都創生は国や京都市の力だけで実現できるものではございません。京都ならではの町並みや文化を守る真の担い手は一人一人の市民の皆様でございます。幸いにも多数の市民の皆様の御参加により本フォーラムが設立されました。本日お集まりの皆様方には京都のすばらしい文化や美しい景観を守るため、一層御活躍いただければということをお願い致しまして、私の発表を終わらせていただきます。どうも本日はありがとうございました。

司会

 ありがとうございました。続いては運営委員の中の3つの団体より活動報告を行います。まずは京都市景観・まちづくりセンターから、理事で京都大学名誉教授の三村浩史先生、よろしくお願い致します。

景観分野:(財)京都市景観・まちづくりセンター理事 三村 浩史

 景観分野の進行状況、取組状況につきまして、京都市景観まちづくりセンターの事例を中心に御報告致したいと思います。

 昨年日本で初めての景観法という法律ができました。恐らく15年ぐらい前ですと、ケイカンというと警察のことじゃないかと思う人も多かったと思うのですが、この景観という目で見て直感的に感じていく、そしてそれを風景として理解していく、こういうものの見方というか、あるいはその対象の存在ということが我々の暮らしにとっても、日本の文化の保全にとってもとても重要なことであるということがまさに認識され、それを法律でもって後ろ盾をつくっていくということができたわけであります。京都市の場合も、市街地につきましては様々な問題に対応しながら市街地景観条例という法律を多年にわたって練り上げてまいりました。今回の創生フォーラムで京都は国家的戦略事業であるからと言うんですが、他の都市からすると京都は景観的にも恵まれているし、産業も大学も、家元も本山もある。京都は確かに日本の都市なんだけど、私達の所も日本の都市なんだよと言ってある意味ではやっかみみたいなところもあるわけですが、それには京都というのはただ綺麗であるとか美しい、小綺麗であるとか、京都らしいとか言ったちょっと次元の低い京都を売り物にしているような都市ではだめでありまして、本当に心の底からこれが京都の心だというものが表出されているような景観づくりに励まなければいけない。そこに全国民あるいは世界の人々を納得させる国家戦略たる所以があるのではないかと思います。
 そういう意味では、京都市は今回の景観法におきましても、京都市が長年培ってきました市街地景観条例は政府における景観法を考える場合の基幹になる発想とか仕掛けになっておりますので、十分にそれが生かされてきているわけであります。それが今回また京都に回ってきて、今度はそれを我々がどのように生かすかという景観の新世紀を迎えようとしているのが現実ではないかと思います。
 そういう意味では、京都は説得力のある景観的な取組をやってきましたが、そしてその中で世界遺産の指定であるとか、いろんな山紫水明の周辺の山、川の整備・保存ということも行って参りました。また多数の社寺、その他の文化財を保全してきたわけでありますが、それらと同時に、私がここで強調致したいのは、町の姿であります。先ほど梅原先生のお話にもありましたように、1000年の古都でありますけれども、これは決して廃墟ではない。また廃れた都市でもない。現代を代表する活力ある都市であるという生き続けている姿というものがすばらしいのでありまして、それを支えてきたのが市民であり、様々な事業者であり、また来訪する観光客とか様々な我々のゲストであり、いろんな行政でもあり、そういう人たちの協力によって町がつくられてきたわけであります。京都の山とか川と言いましても単なる自然ではございませんで、人々の暮らし、町のあり方と一体になって呼応しながらできてきたものでありますから、町のほうを乱雑につくってなすがままにしてしまえば、京都は京都でなくなるということが問題であります。今年の祇園祭のテレビの中継を見ておりましたら、これはアナウンサーの方の責任ではないんですけれども、「マンションとビルの町になっても京都の心はこの祇園祭につながっていますね」とか言っておりまして、それも分かるんだけれども、やっぱり町の姿というものが背景にきちっとあって、京都のまちづくり、家づくりの人々の感性とか嗜みが表れて、一体となっての京都でないかと思って、いや、やっぱり景観も大事ですよと僕は独り言を言っておった次第でございます。

 もう一つ、京都の先進的な取組というのは、私が今日御報告致します京都市景観まちづくりセンターでございます。町というのは生き物でありまして、京都市役所だけで動くものではございません。多くの住民の方、特に京都の場合は学区の住民の方、様々な連合会の方、様々な同業者の方、それから市役所、府、いろんな人達がかかわり合いながら町を育ててきている、その力によって町が生きているわけであります。ところが、そこを中心にいろんな活動エネルギーがあるのに、それを引き出していく、あるいはあるエネルギーとあるエネルギーを結びつけていくような場所が非常に少なかったわけであります。この点で京都の先駆的な試みの一つとして結成されましたのがこの景観まちづくりセンターでございまして、既に平成9年設立ですから非常に早かったわけです。以来8年を経て今日に至っておりますが、ここはそういった市民の方々の様々な景観を含めたまちづくり活動の広場として、交流の広場として、またそれを支援するエネルギーの要として働いてきております。これまででも景観に関するワークショップを開いたり、あるいは資料を提供したり、調査活動を行ってまいりました。それから市民に啓発する意味で景観まちづくり大学、様々なシンポジウム等も開いて参りました。また最近は、市民の団体、NPOがどんどん京都で増加してきました。京都の人は余りまちづくりに熱心でなかったような時期もあったんですが、最近は非常に盛り上がっておりまして、たくさんのNPOとかまちづくり団体が育ってきておりますが、この人たちの交流の場、あるいは交流博覧会というものも開いてきたわけであります。それによって景観まちづくりセンターができる前に比べたら非常に賑やかに盛り上がってきていると思います。そこでまちづくりセンターの役割ももう一回評価していただかなければいけないのじゃないかと思っております。

 それから、最近の特筆すべき事柄といたしましては、先ほどの景観法に基づきまして、特に優れた重要な建造物、建物とかいろんな工作物とか庭園とか、こういったものを保護・管理していく役割が直接市役所ではなくて、市が指定致しましたNPOとか諸団体にお願いして、管理・指導・計画・サポートをするという仕掛けが景観法の中に入っておりますが、これは全国で初めて、京都市でも初めての景観整備機構というものにまちづくりセンターが指定されたのでございます。これで市役所直営ではなくて、様々な民間のエネルギー、市民の方のエネルギーと一体になりながら、そういった景観づくりを実践的に進めていく力が我々に付与されたわけであります。

 またもう一つは、この9月に設立されました京町家まちづくりファンドでございます。京都の町家というのは、一頃は古い、カビ臭い、住みづらい、地震に危ない、バリアフリーでないと、悪口の対象であったのでございますが、近年は様々な努力によりまして、改修をきちっとやれば住み続けられる、安全である、地球環境にも優しい、それに京都の町家と町家の暮らし、その町の姿には京都の人々の暮らしの知恵、文化というものが凝集されている場である。だから、京都で町家を失ってしまえば京都の町は京都でなくなるのじゃないか。そういった京町家というのは京都の都市居住の原点であります。これをできるだけ残して、そのよさを後世に伝えて、更に新しい継承できるような町家を創造していく、こういう繋ぎをやるためには、現在ある町家のうち相当部分を保全して、現代らしく住み替えられるように改修をして、ビフォー・アンド・アフターといってもあんなテレビのとはまた違いまして、本格的な改修をして住み続けられる、そして品格のある住まいを再生する、こういう作業をすることに致します。これも国の毎年来る補助金では役立ちません。それだけでは無理でありますので、やはり基金を使って、蓄積したお金を運用しながらサポートしていく必要があるということは前から言われてきたのでありますが、この度篤志家の方の御寄付をいただき、それと市と機構との連携によりまして、この9月に資本金といいますか、ファンドの基金としては8000万でこのファンドをスタートすることができました。しかし、8000万では1軒の家を修復するにしてもお金がかかりまして、ましてや売りに出るとか、あるいは潰されかかっているというものを救済して、次の住み手、買い手、借り手につないでいくような仕事をするにはとてもこの資金では足りません。京都創生の中で京町家の保存ということがすごく重要な柱になっているとすれば、この基金を飛躍的に大きくする必要があるわけであります。そこでこのファンドはそういう基金集めを単に市民だけではなく、企業、事業者の方だけでもなく、全国的に訴えていく、あるいは世界的にも京都の町家を大事にして生き長らえさせようという、そういう会員を募っていくという試みに取り組んでおります。これも創生活動の重要な柱と位置付けていただきたいと思うところであります。

 そういうわけで、かつてなく京都のまちづくりというのは新しい視点を得ながら現在展開しつつあります。この初期的な大きな盛り上がりを力をそぐことなく持っていきますと、京都は本当に市民の方が本質的なものを狙ってやっているのだなと他の都市、あるいは政府からも理解されるわけであります。そうしたときに初めて京都創生というものが地方区から全国区の大きなムーブメントとして発展して定着していくんじゃないかということを願いながら、景観まちづくりセンターからの報告とします。どうもありがとうございました。

司会

 ありがとうございました。代わりまして今度は京都市芸術文化協会の片山慶次郎理事が報告致します。片山理事お願いします。

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