パネルディスカッション | |
吉澤 | すごいですね、京都の家元というのは本当に。お花をいけるだけではなくて、非常に文化の含蓄に溢れたお話で、本物を見る目がなきゃいかんとかですね、しきたりというものをこれからもう少し見直していかなきゃいかんのじゃないかとか。勉強になることが多かったと思います。 では、次に栗山さん、お願いします。先日も京都新聞の特集面で、ちょうどこの京都創生推進フォーラムの特集面で梅原先生に色々インタビューしましたところ、自分が学生時代に過ごした西陣の町並みが失われていくのが非常に悲しいということをおっしゃっておられました。栗山さんは建築士であると同時に京都市の景観まちづくりセンターの評議員として色んな町並みの景観保存にも御活躍でございます。よろしくお願い致します。 |
栗山 | ただ今紹介していただいた栗山と申します。私は建築に携わっておりますので、今御紹介していただいたように、建物の話をしたいと思っております。昨年のちょうど今頃だったんですが、京都市近代和風建築調査というのがありまして、私も別のNPOであります古代文化の会というのでそこにかかわっておりましたので、その一員として調査に参加しました。これは、だいたい戦前の木造の建物が京都市内の中にどのように分布して残っているかという、京都の町々を周辺も全部含めて調べて歩くという実態調査だったのですけれども、そこで感じたことを2つほど述べたいと思います。 まず町中ですね。町中は町家に代表される木造建築が残っておりまして、京都市の町家の調査というのがありますが、そのデータの中に、一次調査と二次調査の7年間に13%の町家が無くなったと聞いておりました。実際、まちを歩いてみまして「本当に13%なのかな」という思いを持ちました。「もっとたくさん無くなっているのではないか」という思いがありました。もう一つ、今、全国的に京町家ブームで、皆さんの身近なところでも物販店とか飲食店とか、色んなところで町家が脚光を浴びて店舗が増えています。歩いていますと、やはり町家というのはそこに人がいて商いをし、住まい、町内会に入り、生き続けることが町家のあり方ではないか、外に向けて「これが町家だぞ」という形で装飾をしてお客さんを呼ぶという、それが本当に京都にとって良いのかなという思いを持ったのでした。 また、周辺部も歩きました。京都市は広いです。私達が担当したところは伏見、西京、南、右京区だったんですけれど、京北町が京都市に入ったということもあり、本当に北から南まで様々に特色がありました。同じ京都市と言えども建物の風情は違いますし、建築の特色も違います。先ほどのお話の中でも京都市はここで完結した都市ということを言われましたけれども、まさにそのような感慨を持ちました。それと、今、先の先生方も京都は美しいと言われましたが、本当に美しかったです。去年の今頃からだいたい2月、3月ぐらいを歩いたのですけれど、大変美しくて。何が美しいかというと、観光地とかそういうところが美しいということではなくて、田畑が広がっている、そして住居がある。そのすぐ後ろには竹林や里山がある。その向こうには本当に豊かな山がある。そういうバランスがとても美しいんです。びっくりしたのは、私ぐらいの年配の女性が多いんですが、そういうまちを何と言うことなしに散策されている方がすごく多いのです。ススキの穂をちょっと持ったり、路端で売ってる野菜を買ったりして一日を楽しむ方がこんなにたくさんいらっしゃる。名所旧跡があるわけでもない、普通であるところが美しい。それはやっぱり景観の方で言われている生活景、そこに生活している営みが美しいということなのかな、と思いました。でも、そう思っていながらよくよく見ますと、それは京都市内も周辺も一緒なのですけれども、美しいと思っていた裏山の竹林が放置状態になっていまして、そこに不法投棄がある。京都市内の市街化地域の中では建てられない建物が、市街化調整地域という山とまちとの間の農業や林業等をすすめる場所に建っている。建築業や土木業の、資材置き場は万能板という鉄板でずっと囲ってありまして、その中の上から少し見えるのは、何か土砂のようでした。もっと深く入っていった森林の中も大変荒れている。京都のまちの中も似たようなことが起こっています。これは本当に全国的なことなのかもしれません。 その様な状況を受けてか、一昨年、景観法という法律が国で制定されました。制定を受けて各自治体がその具体的な方法を計画するという時期に今、なっています。京都市には今までも、それにかかわる条例がありましたけれども、整理して、景観計画というものを来年度から実行されていると聞いております。「景観法」という景色とか見え方とか、ソフトなものをくくる法律というのはどういうものなんだろう、ということで見てみますと、3つの特徴があります。 1つは、今まで文化財については守る姿勢が表に出ていたのが、今回は守って創って育てて未来へつなげていこうという、とても未来型であるような文章でありました。もう1つ、今言っていたような、建物がある、その周辺がある、その横には川が流れていて山がある。そういうものを総括した風景を守り育てていこう、という広い視点があるな、と思いました。それからもう1つは、何も無いところだけれどもすごくいい建物がある、神社に大きな樫の木がある、そういうものがピンポイントで「景観重要建造物」「景観重要樹木」という指定ができますよという文言が入っておりました。それが素敵だなあと思いました。そして、私達が「ここにこういうのがあるけど、どうしたらいいやろう」ということを相談できる窓口というのを作らなければならない。それが「景観整備機構」という、法的ですので硬い名前ですけれども、そうしたものを設けることになっておりまして、京都市の場合は皆さん御存知だと思いますが、私達が「まちセン」と呼んでおります「京都市景観・まちづくりセンター」がその役を担うことに決まりました。「まちの色んな景観や古い建物をどうしたら残せるんだろう?」「この建物を生かしてこんなことをしたい」といった時には、その窓口がきちっと見えるところが、今度の法律の大変良いところだと思いました。 そういうシステムとしてはできたので、じゃあ、私達市民は何をしたら良いのか、関与するには何かすることがあるんだろうか、ということを考えた時に、これも3つぐらいのポイントがあると思います。まず自分達のまちを知る、住んでいるまちや周囲、それを見て本当に美しいと思ったら、それを見つけて声に出す。「ええとこあるねん、うちのまちには」。友達に言う、家族に言う、ということで良いところを見つけるということがまず1つかと思います。良いところを見つけたら、それを何とか育てていって欲しい、建物を残していって欲しい。そういった時に、他に何ができるのだろうかというと、私はお金を出すことだと思うのです。それも大きいお金じゃなくて500円とか100円とか「今日、帰りにお茶飲もう」とか思ってらっしゃる方は、そのお金を、今日もまちセンの方がいらっしゃると思うのですが、そういったものをまちの経費にするために、それをお金にして渡したらと。納めたが回り廻ってどこにいったか分からないっていうのが税金ですが、「このために500円出します」という形で、まちに私達が関与できたらいいのでは。それと、お金を出したら、そのお金がどこに行ったかというのをちゃんと見ておく、ということが必要なのかな、と思います。そしてそんな活動がさらに「こうなったら良いね」というのは、もし時間があったら後でお話したいと思います。 |