講演1 :「身近な京都〜お客様へのおもてなしを通じて〜」
横 山

  私も東山七条のことを勉強しました。実は京都造形大学の先生にホテルの土地のことを調べてもらいました。以前はあそこに法住寺殿があり,後白河法皇が院政を敷いて時代,清盛に命じて三十三間堂を建てられました。千一体の仏像は全部ホテルを向いて立っておられます。お客さまは護られているというお話をしたり,太閤さんのお墓があったり,そういう話をします。私も今,歩いて通っているのですが,大仏さんのあったところの石垣,加賀の鳴き石ですか,あれが角にあって,あんな石垣はどこのお城でも見たことないですね。それから,ちょっと戻って,私,五条通にある歩道橋を渡るようにしてるんです。体のことも考えて少し運動するようにしています。まあ歩道橋の上がり下がりでは運動にはならないんですが。その歩道橋に上がると,季節,それから気候によって,山の稜線がくっきりと東と西に見えます。毎日当たり前のように御覧になっているから,普通に御覧になってるかもしれませんが,私はとても楽しいのです。毎日歩いていると,今日のように寒い時は稜線がくっきりと見える。少し気候がやわらかくなってくると,その線がぼんやりとしてきます。たまに,シカゴや香港,海外から携帯に電話がかかってくると,四条の準備室に行ってる時など,松原の橋を渡る時,ピーヒャララって鳶が鳴くんですよ。「おまえどこにいるんだ?」って言われるんですよ。一昨日も東大路を歩いていたら鶯が鳴きました。また同じことを言われました。「おまえどこにいるんだ? 何してるんだ?」と。こんなに自然が豊かで,ましては歴史的遺産や文化もあり,そうなると最終的には私たちは自然に生かされ,歴史の積み重ねの上に生きているのだなと。私にも両親がいて,両親にもその両親がいて,戦争やいろんなことがあったけれど,なんとか生き延びてきたDNAがここに集まっていて,それが歴史を支えていて,またこれから歴史を支えていくのかな,と。そんな山を見ながら東大路を南へ下がりながら石垣を見ながら,毎日のように思います。すごい石だな。この石を誰が持ってきて,なんで大仏は焼けちゃったのかなと。そして,豊国神社さんを左手に見て国立博物館に向かう。あの正面玄関は圧巻です。150年という歴史があって,もちろん他の建造物に比べればまだまだ若い建物だと思いますが。その横を通って,三十三間堂の横を通っていく。これが毎日楽しい。本当に当たり前のような話ですみません。ですが,毎日歩いているその二度と来ない一瞬,一瞬がとても楽しく思います。冷たい風が吹いてきてすごく気持ちがいい。その次に暖かい風が吹いてくると,あ,やわらかくなったなと思う。それで鶯が鳴いたりしたら,感動してしまいます,これだけで。もちろん私の気持ちや仕事にも浮き沈みはあるのですが,この一日,一日当たり前の日を,瞬間,瞬間をいろんなものを見ることによって,もっと楽しいものにできるのかなと思います。そういうことをもっと伝えたい。お客さんにも伝えたいと思います。

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